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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

そしてあり合せた傘と履物を片手に掴み、ばらばらと庭先を駈け抜け、玄蕃の立ち竦んでいる前へ来て片膝を折った。

「大月様――」

「ウム、何じゃな」

「雨具のご用意を致して参りました」

「おお大儀じゃ」

玄蕃は何の気もなく、沓ぬぎに揃えられた穿物へ足を入れながら、

「困り抜いていたところをよく気がついてくれた。この後目をかけてつかわすであろう、其方は何と申す者だ」

「足軽、秋山大助と申します」

作り声ではあるし、笠を眉深にした顔は暗いので、玄蕃も、これが春日新九郎とは、夢にも思わぬのであった。

「ウム、秋山大助というか、拙者も今日より、当分ご邸内に住まうことに相成った。お役の閑を見てまた遊びに参るがよい」

「有難う存じまする、まだお屋敷内の様子もご案内なかろうと存じますゆえ、その辺までお送り申して参りましょう」

「夜更けているのに気の毒じゃの」

玄蕃は、新九郎が翳しかけてくれた傘に身を入れて、広い邸内をどう行くとも知らず歩き出した。――彼が案内知らずならこれもまた勝手知らず、とうとう、奥庭の真っ暗な小道へ入ってしまった。

新九郎に取っては、もっけな場所へ出たのであるが、玄蕃は、少し不審を抱きはじめて、