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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

「さもなくば何としやる気? ――」

「おや、この女め、怖ろしい権式を持ちゃあがッて、こうするんだッ」

飛びかかって紅緒の笠べりをバリッと掴むと、女は下からポンと小手を払って、あッと見る間に腰をすくって、大の男をもんどり打たせた。

「うぬッ、洒落たまねをッ――」

続いて唸り込んだ三本の息杖、カラリッと虚空に鳴ったのは女の杖に弾き返された一本が、クルリと宙に舞って飛んだのだ。

「あ痛ッ」

眉間を押えて一人が倒れると、その上へまた見ぎたなく投げられた荒くれ男。立ち上がったが意外な手練に度胆をぬかれて、

「畜生、覚えていやがれ!」

と、捨て科白を言い残して一目散に逃げ出した。

「ホホホホホホ、これで雲助どもを揶揄うたのは、今度の旅で三度目じゃ」

年下の方を振り顧って、動悸もさせずに笑ったのは、むしろ艶やかというよりは凄い女。――でも少しほつれた鬢の毛を梳き上げるため、日除笠の緒を解いたのを見ると、これなん、菖蒲の寮の光子の御方。

連れはと見ると、意外にも、千浪であった。

松平忠房の下屋敷を最後として、皆ちりぢりになってから早くも三年の月日が過ぎている今。千浪も虚無僧当時の乙女でなく、御方も早や三十路に近い色香の薄らぎ。