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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
がようやく仕事を覚え、肌も茶色にやけてくると、まったくなかまに溶け込んでしまい、もはや彼に注意するような者は一人もいなくなった。
赤痣がある以外に、彼は他のなかまと特に違ったところはなかった。ものやわらかで、腰が低く、よく働いた。眼立つようにではなく、人の気づかないこと、人のいやがるような仕事をすすんでやった。初めは誰でもそんなふうにするものだ、精勤を見せかけるために、あるいは新しい仕事に対する興味に駆られて、――しかし彼はそのどちらでもなく、もっと素朴な、それが自分の仕事であるという、ごくあたりまえな態度であり、半年経ち、一年ちかく経っても、その仕事ぶりに変りはなかった。少なくとも、他の十五人のなかまと同様に、その表面だけはそうであった。
心ない人の眼にどう見えようとも、かれらも人間であり、男であり女であった。まる坊主で、下帯だけの裸躰が石灰粉にまみれ、口もきかず、仮面のように無表情で、誰が誰ともたやすくは区別しがたいながら、その内部にはやはり怒りがありよろこびがあり、悲しみや嘆きや、いろいろな欲望があったにちがいない。むしろ、必要に強いられた沈黙と、石灰粉との殻に閉じこめられているだけ、よけいに、かれらの内部にある人間感情は激しく、あらあらしく、衝動的であったかもしれない。