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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
どういう意味を表明したのかわからないし、なんの意味もないようにも受取れた。
「べつにいそがなくてもいいのよ」とおさいは探りを入れるように云った、「あたしがいそいでるなんて思わないでね、あたしいそぐ気持なんかちっともないんだから、わかってるわね」
彼はなにも云わなかった。
「うちへ来てちょうだい」と別れを告げてからおさいが云った、「あたしうまいライスが出来るのよ、玉葱とヘットだけで拵えるんだけど、とても玉葱とヘットだけだなんて思えないほどうまいのよ、これからはちょいちょい来てよ、いいでしょ、待ってるわね」
彼はこんどは二割がた大きく微笑したが、なんの動作もしなかった。
「へっ、うみどんぼ野郎」とおさいは外へ出てから、口の中で罵った、「うすっ汚ねえもくしょうめ、覚えてやがれ」
彼は将棋盤の前にあぐらをかいて坐り、深い溜息をついてから、頭をさげて盤面をみつめた。
「七八銀上りか」と彼は云った、「――つまり、棒銀をやらさねえってわけだな、すると、中飛といく手か、へっへっ、おあいにくだが、その手はくわねえ、といこう」
彼は駒を取って打った。安物の盤の上で、その駒は冷たそうな、いい音をたてた。