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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

中二日おいて、三日めの午ごろ、私は寝ているところを呼び起こされた。窓の雨戸を叩きながら、先生起きせえま、と少年たちが呼んでいるのである。私は起きあがって窓をあけた。外には五人の少年たちが、洗面器やバケツや空缶などを持って立ってい、私を見ると一列縦隊に並んだ。先頭にいるのは「千本」の長で、かんぷりの顔も見え、みんな泥まみれのはだしであった。

「鮒とってきただよ」と長が云った、「買ってくれせえな、先生」

私はかれらの期待に満ちた注目をあびて、自分に拒絶する勇気のないことを悟り、かれらを勝手口へ廻らせた。そこでもかれらは一列に並び、ひとりひとりが私に向って自分の鮒に値を付けさせた。そのときになって初めて、寝起きのぼんやりした私の頭が、かれらの奸悪な計略を理解した。つまり、まとめて売れば安くなるが、一尾ずつなら安い値踏みはできない、という狙いなのだ。

「ほれ、みせえま」とかれらはそれぞれの鮒を私に誇示した、「こんなにえっけえだ、五寸くれえあるだえ、先生」

そして「しょっから」へゆけばこれ一尾で一かんは取られる、と云って互いに頷き、肯定しあうのであった。私はそこでもまた自分が罠に落ち、縛りあげられたことを知った。