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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

「どこから来ただね」と男が云った。

私が答えると、男は振り返って私の青べかを眺め、歯をむきだして冷笑した。

「青べかを買ったのはおめえか」と男は云った、「すると蒸気河岸の先生だね」

私は肯定した。

「じゃあ信用すべえが」と男は権力の代行者のように云った、「ここは貝の活け場だ、こんなところで貝を採ったりするとただじゃ済まねえだよ」

彼は私の掘った蛤を取ると、水のあるほうへばらばらと放り投げた。やっぱりそういうことか、と私は思った。こんなことがあるわけはない、こんなに大きな赤貝や蛤がぞくぞく出て来るなんて、それだけで訝しいと気がつくべきじゃないか。私はそう思いながら、青べかのほうへ歩いていって、さっきの赤貝どもを男のするように、取っては投げ取っては投げした。蛤の解放を終った男は、たぶん私の正直さを認め、いくらか気の毒にもなったのだろう、砂の中から大きな灰色の二枚貝を掘り出すと、それを持って私のほうへ歩みよって来た。

「こいつはおーの貝ってえだ」と男はその貝を私の手に渡して云った、「これならいくら採っても構わねえだよ、そううめえってわけにゃあいかねえが、まずくって食えねえってこともねえだ、そうさ、するめに似てんべえかな、大味だがするめっくれえには食えるだよ」