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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

もうこれで終りだろうか、娘の気持はさめてしまったのだろうか。彼は二人の仲を裂かれたときよりも激しい不安と、絶望感におそわれた。だがそれは思いすごしで、彼女はそのあいだ産褥についていたのだ、ということがわかった。再び土堤へ姿を見せたとき、彼女はおくるみで包んだ赤子を抱いていた。

「おかしなことだが」と幸山船長は云った、「まったく根もねえ話だが、そのときおらあ、あのこが抱いているのはおらの子だっていう気がしたっけだ、あの子がおらの子を生んだ、いま抱いているのはおらたち二人の子だってよ、先生なんぞにゃあばかげて聞えるかもしれねえだがね」

彼女の生んだのは女の子であった。

あとでわかったのだが、彼女の産は重く、そのため躯が弱ったということで、土堤へ姿を見せないことが多くなった。しかし、こんどは彼は疑いも不安も感じなかった。相当な資産家の主婦であり、また子も生んだとなれば、ときには都合の悪いこともあろう。番たび土堤に出て来られないのは当然だ、というふうに考えるようになった。

彼は二十七歳でエンジナーになり、結婚した。相手は郷里の水戸在に育った娘で、気が強く、言葉も動作も荒っぽく、彼は始めから好きになれなかった。