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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

夫人は銀公とどう約束ができたにしろ、相手が十七の少年であり、ほかにも娘たちが付けまわしていること。また、結婚するにしても、いま妊娠したりしては困るだろうことなど、いろいろと忠告したが、とみちゃんははっきり、自分のことは自分でよく考えているからと答えたそうであった。――ここで読者のために記しておくが、のちにとみちゃんはやはり妊娠してしまい、銀公もよりつかなくなったので、早いところ実家へ帰ってしまった。実家がどこであったか私のノートには書いてない、たぶん茨城県のどこかだったと思うが。帰るとすぐに、同じ土地で嫁にいった、というハガキが、高品夫人に届いた。

――あたしなんかがよけえなこと云う必要はなかったのね、と高品夫人はそのハガキを私に見せながら云った。あのこはちゃんと自分のことは自分で考えていたんだわ。

さて、――船宿「千本」の店先では、三つの縁台の人たちが、飲んだり饒舌ったり、将棋をさしたりしていた。銀公が酒と佃煮を取りに来たことも、彼がそれらを持って三十二号船へ戻っていったことも、もう誰の頭にも残ってはいなかった。しかしそのとき、こちらの人たちの気づかないところで、一つの事件が進行していたのである。