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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
銀公は仰向きになって、しらじらとした顔で、――高品夫人の言葉によると「かみどこ屋で頭でも刈らせているような」顔だったそうであるが、そういう表情のまま、高品さんのおかみさんだぞ、ととみちゃんに呼びかけた。とみちゃんの呻き声は止ったが、律動的な身もだえは止らなかった。それはちょうど悪夢にうなされていて、これは夢だと気づきながら、なお悪夢からぬけだせないといったような、つまり神経活動の切替えがうまくいかない、というふうな状態であった。銀公はそこで、やはりしらじらと平気な顔のまま、下からとみちゃんの肩を小突き、おい、高品さんのおかみさんだってばな、と云った。
――そうしたら、おどろくじゃないの。
この話をしていた夫人は、しんじつ驚いたというように、眼をみはってみせたものだ。銀公に二度めに注意されると、とみちゃんの躯の律動はようやくにしてしずまった。そうして、とみちゃんはその恰好のままで、首だけ夫人のほうへゆっくりと振り向き、訝しげに訊いたそうである。
――なんですか、おかみさん。
明くる日、高品夫人はとみちゃんを呼んで話を聞いた。とみちゃんは銀公と夫婦約束をしたと答え、だからなにをしようと誰に文句を云われる筋もない、とい直るような態度をみせた。