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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

た。

「背負ってるのはおっかあでね」と平二郎は云った、「ああやって背負っていって、着物をぬがして、躯をすっかり洗ってやって、きれいに拭いて、それから着物を着せて、うちまで背負ってけえるだよ」

私が質問すると、平二郎は大きな眼をそろそろとすぼめ、ふしぎなことを訊く人間がいるものだ、とでも云いたげな顔つきで私を見た。

「なんでだね」と平二郎は訊き返した、「――若えもんならともかく、あんなとしよりが女湯へへえったって別条なかんべえがえ、おらだって用があればいつだってへえるだ、女どもだってそんなこと屁とも思やしねえだよ」

そして、増さんはおっかあのことを決して他人に任せない。おっかあのどんな親しい者がいて、たまにはあたしが洗ってやろうと云っても、増さんはきっぱりと断わり、おっかあの躯の隅ずみまで入念に自分の手で洗ってやるのだ、と平二郎は云った。

私は高品さんの炉端でも、増さんの話をもちだしてみた。高品さんのところではあまり収穫はなく、「昔は村一番の鼻つまみだった」とか、「綽名を家鴨って云うだ」とか、いま漁業組合で働いているが、それは大蝶の旦那が口をきいたからで、その大蝶の旦那でさえ増さんの顔は「見たくもねえ」