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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

その次には路上で会った。堀東のところで私がスケッチをしていると、一人の男が背中に初老の女をおぶって歩いて来、背中の女と、なにやらなごやかに話しながら、中堀橋を渡って去っていった。この土地でそんなところをみつけると、人は決して黙っていない。おとなはまあともかくとして、悪童どものからかいの好餌になることは疑う余地がなかった。だが、そこには往き来する人がいたし、悪童どもも遊んでい、かれらはみなその二人を認めたのであるが、爪の先ほどの関心を示す者もなく、むしろそのことのほうに私はおどろいた。その次に、同じような二人と路上で出会ったとき、女を背負っている彼のうしろ姿を見て、彼の足が涜神的にまでがに股であることと、「天鉄」で魚の頭や尻尾のてんぷらを注文する男であることに気がついた。こうして幾たびめかに、私は堀南にある「梅の湯」という銭湯をスケッチしていたとき、その女を背負った彼が、「梅の湯」の暖簾をあげ、女湯のほうへはいってゆくのを見て、ちょっと眼をみはった。

「ああ、そりゃ増さんてえだ」

蒸気河岸の「根戸川亭」で、平二郎という老人の漁師が私に云った。平二郎は息子の嫁と寝るといわれ、そのはらいせに息子と平二郎の妻(後添いで息子には義母に当ると聞いた)が寝るという噂のある老人で、べらぼうに酒が強く、口もまた達者であっ