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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「知ってなくってさ、みよっこは、――よしな、まあ、いけ好かねえ」
「痛えな、そんなことしなくってもいいじゃねえか」
「よわ虫、なにさこんくれえなこと」
「痛えってば」
そこでちょっと声がとだえ、口笛のような妙な声が聞えた。なんの音かはすぐにわかった。芒の葉を横にして唇に当て、中ぐらいの息で吹くのである。草笛とは違うが、単純な田舎めいた顫震音が出るのだ。恋をさそいかけている若者にしては、子供っぽいことをするな、と私は思った。女がそんなことをよろこぶ筈はない、まもなく「あああ」と女が退屈の声をあげ、男は芒笛をやめた。
「おめえさっき女ばっかり苦しいめにあうって云ったっけが」と男が云った、「それがわかっていてどうして嫁にゆく女が絶えねえだえ、嫁にゆくめえにだって、男をこしらえる女は数えきれねえくれえいんじゃねえか」
「そりゃあみんな男が悪いからさ、男がうめえこと云って騙すから、つい本気んなって苦しいめにあっちまうだ、昔っからいつも男が悪いために」
「りょうは新しいべか舟を買っただな」と男が云った、「元のべか舟はじいさまの代からのもんで、浦粕一のぶっくれ舟だっけだが」