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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

痩せてはいるが引緊った小柄な躯の、小さな尻が、歩くたびにくりっくりっと動く。その歩きぶりが驚くほどまざまざと、少年時代の長を思いださせた。あのころの彼も、そういうぐあいに、小さな尻をくりっくりっと動かしながら、いかにもすばしこそうに歩いたものだ。語尾の「ねえっ」というアクセントとともに、私の前に少しずつ、長少年がその姿をあらわしてきたのである。

「あにきの鉄ちゃんはどうした」と私が訊いた、「鉄ちゃんと倉なあこは、釣りの穴場を知っている点で浦粕一番だったじゃないか」

「うん、二人とも腕っこきだったねえっ」と長が云った、「倉なあこって船頭は三人いんだよ、ぐず倉にがちゃ倉、それにぼぼ倉ってってねえっ」

「僕の知っているのは温和しくって、口が重くって、頬ぺたがいつもほんのり赤い倉なあこだがね」

「ぐず倉ってえだ」長はくすっと笑った、「温和しくっておっとりしてえんだろうが、することがのろくせえからぐずってえだ、がちゃ倉はいつもがちゃがちゃそうぞうしいからだし、夜になるとすぐおっかあに寝べえ寝べえって云うのが、ぼぼ倉ってえだよ」

「鉄ちゃんはうちを出ただよ」と長は私たちが笑うのに構わず続けた、「堀南でてんぷら屋をやっててねえっ、とても繁昌してえるだよ」