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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

。

真白い腕から、火の輪のような一閃が、玄蕃の横へひゅっと飛ぶ。

「あッ」

と、不意の強敵に、おどろいた大月玄蕃。

新九郎と食い合った鍔がっきり、身を捻じかわそうとしたが刹那、鵜の毛のゆるみを生じて、たたたたたたと岩押しに押してきた対手の剛剣。堪らず、無理に引っぱずして、ツイと抜ける。抜けたところへ息もつかせず御方の二の太刀がさっと閃めいた。受ける間には、後ろから新九郎の浴びせが来る。ここ、さすがの玄蕃も、進退極まって、ばらばらッと四、五間駈け出し、再び構え取りを改めて見たが、ひとたび、逃げ足立った心の破れ、またたちまち斬り立てられて、今度こそ、本気になって逃げ出した。

「卑怯な奴、待て待て!」

と罵りながら、新九郎は、どこまでもという血相で、玄蕃の後をおいかけて行く。

と、御方は、またくるりと踵を返して、投げ槍の小六を手初めの一刀両断に斃し、続いて臂の久八へ向って来たので、こんがら重兵衛は、ここぞと勇気百倍、一念力をふるって、久八の真っ向から、唐竹割に拝み落した。

「わッ」

と、断末の血煙りが、濛として霧のように立つ、そしてしばらくは血腥い風が、柳の樹かげに漂ってあたりを去らぬばかり。