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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年1月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 页

青空文庫

見る間に駈け寄ってきたのは春日新九郎、青額に紫紐の切下げ髪は余り美貌過ぎて、不敵な郷士の度胆を奪うには足りないが、勇気は凜々として、昔の新九郎とは別人のように、

「やあそれなる浪人輩、白昼良民の娘を誘拐すとは不敵至極、渡さぬとあれば用捨はならぬぞ」

と大刀を閂に構えて、云い放った。

「黙れ青二才ッ、誘拐すとは何事だ、召使に致すため連れて行くのが何で悪い」

「要らざるところへ出しゃばると、その細首を叩き落すぞ」

と三人は歯を剥いて罵った。

「ではどうしても渡さぬと申すか」

「馬鹿めッ、くどいわ」

「欲しくば腕ずくで来い!」

「おお腕ずくで取る!」

と、新九郎は一足退いて、大刀を抜き放ったが、錬磨のない腕前の悲しさ、鯉口を切るか切らない先に、敵の一人が抜き撃ちに、

「真ッ二つだぞッ」

と叫んで躍りかかって来た。はッと新九郎の足は、我れ知らずもう一足飛び退いたところを、横合から大勢の百姓が、

「それッお武家様に加勢しろ」

とバタバタとふり込んだ竹槍が、盲ら当りに、一人の郷士の腰を払いつけた。

「己れ不埒な奴めッ」

と打たれた郷士は新九郎を捨てて、どっと百姓の群へ突き進んで、まえの一人を袈裟がけに斬り捨てた。