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とうおういぶん
東奥異聞
佐々木 喜善
「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页
これは当方で名高き正法寺の文福茶釜(14)であるが、いまはその茶釜には大事の蓋がない。その蓋のなくなった由来こそこの話の大事な個所であるから忍耐して聞いてもらいたい。
昔陸前国気仙郡、今の猪川村に稲子沢長者という長者があった。数多の下女下男があるなかに、稲子沢の寝手間取りとて、年中ごろごろ寝てばかりいて食っている手合いも多かった。そのなかに某という若者があったが、いまを血気盛りの若者がそうして毎日寝てばかりいるのもつらいことだろうとて、主人はあるときそれを呼んでアワ種五合を預け、これをおまえに与えるからかの山畑にいって蒔き耕せ、この仕事ならそう難儀でもなく、かえって気晴らしにもなることであろう。一年いっぱいその五合蒔きの畑を操業するのがおまえの役目だという。若者はそんならといって畑にいったが、すぐ還ってくる。蒔いたかと聞くと蒔いてきたという。それからやがて畑の雑草を取らねばならぬ季節になったので、主人はまたアワの草は一本立ちに取らねばならぬものだからそうしろと教えて若者を畑に出すと、いったかと思うとすぐに戻ってきて、雑草は綺麗に取ってきたという。