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とうおういぶん

東奥異聞

佐々木 喜善

「東奥異聞」閑話叢書、坂本書店、1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,862 字 · 124 页

青空文庫

すなわち吹けば飛ぶ吹かずば飛ばぬ云々は糠部の郷で、千本林とあるからはタケの林のことであろう。そうしてひいろろ川とは鳶川で、腐れぬ橋はもちろん石の橋である。そこの館の姫君であるぞいと解きくれた。若侍はやがてそこに訪ねいったが、身分の相違やなにかでどうしても名のりうべき術もないので、その館の門前の老婆に頼み入り、その館の竈の火焚き男に住みこんだ。そうして昼は竈の火を焚き手面目顔を真っ黒に炭を塗って働いても夜になれば湯を浴び髪を上げて自分の室に引き籠もり読書をしているので、いつか館の姫に垣間見られることとなる。そして姫は恋の煩いとなってしまう。型のごとく医者や法者の験もない。ところが門前の老婆じつは古蝦蟇の化けた老婆が、その病気の根が館の下男のうちにあると告げたので、長者は七十五人の下男にいちいち身支度をさせて姫の機嫌を取らすが、一人としてその気に入らぬ。最後に残った竈の火焚き男がみんなの嘲笑のうちから、やがて身ごしらえをして出ると見違えるようなりっぱな美男になる。それが姫の心にかない病気がただちに癒える。こうしたわけでその若侍はこの長者の聟君となって立身出世するというのである。