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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
すると、うしろに人の足音がし、彼は背中を激しく打たれた。背中と、次に頭を。それは刃物のように感じられ、背中も頭も断ち割られたように思えた。彼が振り返ると、彼女の良人がすぐうしろで、石灰の掻き出しに使う大きなショベルを振り上げていた。
彼の動作はおどろくほどすばやかった。打ちおろすショベルの下で、彼は敏捷に女の上から転げ落ち、相手の片足を抱えて立ちあがった。相手は仰反けに倒れ、ショベルは彼の手にあった。このときは他の工員たちもそこへ来ていた。雑役の老婆の知らせを聞き、みんな積み荷を放りだして駆けつけたのだ。しかし、かれらが止めにはいる隙もなく、彼は奪い取ったショベルで、仰反けに倒れている相手を殴りつけていた。相手の口からけもののような悲鳴があがり、顔を押えた両手が血に染まった。みんながとびかかるまえに、彼は相手を幾たびか殴り、殴られた相手の胸と腹が切れて、白い石灰粉の上に血がとび散った。彼ははげしい咳におそわれ、ショベルを持ったまま、工場の裏へ走り出ていった。工員たちは裏の戸口まで追っていったが、振り返った彼の顔と、右手に持ったショベルを見て、立停ったまま動けなくなった。