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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
彼は床板の上を凝視した。石灰粉が積って、白堊の板のようになったそこに、点々と赤いしみが落ちているのだ。一つだけあいたままになっている焚口の火を映して、建物の中に充満した濃霧は橙色にぼうと染まり、その幻想的な明るさの下で、床の上の染は鮮やかに赤く、点々と彼女の足跡を追っていた。
彼は意識が昏んだ。彼は抱えている薪の束を投げだして、大股に彼女のほうへ歩いていった。彼女は板壁に背中で凭れ、跼んでなにか布切のような物をたたんでいた。彼はまっすぐに歩み寄ると、いきなり彼女の顔を殴った。三つ、四つ、力まかせに殴り、そのたびに、彼女の頭は左へ右へとかしいだ。彼女は失神したような眼で、ぼんやりと彼を見あげた。痛みも感じず、殴られたことも感じないようだ。彼は両手で彼女を掴み、そこへ押し倒すと、片手でさぐって、彼女の下帯を引き千切った。
そのとき、雑役の老婆の叫び声が聞え、押し伏せられた彼女が叫びだした。舞いあがる石灰粉の中で、彼は女を全身で押しつぶし、片手で口を塞いだ。彼女はその手に噛みつき、小さな手と足で狂気のように抵抗した。彼は意味のないことを喚きながら、女の胸へ顔を近づけた。