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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

べつに気にもとめなかったが、まもなく戸口でおせいちゃんの呼ぶ声がした。

彼女はよそゆきの支度をし、白足袋をはき、赤い顔に幸福そうな笑いをうかべながら、土産物の包みを私に渡して、机の脇へ坐った。彼女の息は酒臭かったが、そんなことは、初めてであった。

「まだ勉強してるの、えらいわね」と彼女はまず子供騙しのようなことを、少しの実感もない調子で云った、「そのお土産あけなさいよ、先生は東京だから知ってるでしょ、ねえ、あけてみなさいよ」

私は云われるとおりにした。包紙の中からは、しゃれたレッテルを貼った朱色の壜があらわれた。それは五種類に加工した豆とあられの混った菓子で、レッテルには俳優の紋や、顔の隈取りなどがちらし模様になっていた。

「品物は五色豆よ」と彼女が云った、「でもほかになんとか云う名があるでしょ」

私が答えると、彼女はまた幸福そうに喉で笑った。

「うまいじゃないの、おのろけ豆だなんて、かっちゃんのお土産」と彼女は云った、「ああくたびれちゃったわ」

こうしておせいちゃんは話し始めた。

昨日のかもは三人伴れで来た。外交員か集金人のようにみえ、午さがりにあらわれて大いに景気をあげた。