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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
右のように周到な手順と力闘の労によって、私たちはようやく一本のビールと食事だけで難をれることができた。つまり「かも」にはならなかったのであるが、――話を元へ戻すと、「澄川」のおせいちゃんのうしろ姿を見送りながら、私はこのときのことを思いだしたのであった。
やがて根戸川亭の出前持が、三皿の料理とホワイト・ライスを届けて来た。私は良心に咎められたろうか、どう致しまして、常にさみしいふところを抱えて飢えていた私は、ごったくや如きのかもになるような男には、拍手こそしなかったが、同情するほどの気持もなかった。――三皿の料理がなんであったか記憶はないけれども、私は籠屋のおたまにその一と皿を持っていってやり、あとはきれいに独りでたいらげて、いいこころもちで眠ったように覚えている。
おせいちゃんは「あとで面白い話をしてやる」と云ったが、詳しいことを聞いたのは翌日の夜、十一時ころのことであった。私が原稿を書きあぐんで、机に凭れたままぼんやりと、この世の生きがたいことや、将来の不安などについて無益なものおもいに浸っていると、土堤のかなたから自動車の音や、女たちの賑やかな声がかすかに聞えて来た。