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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
その二人は厚く白粉を塗り、鼻がばかになるほど安香水を匂わせ、すぐに客の膝へ腰掛けたり、客の吸っているタバコをひったくって吸ったりするのが、現代的サービスだと信じきっているような女性であった。
おさいは白粉もつけず、ふだん着のままで店にあらわれ、てきぱきと料理の皿やビールや酒を、運んだりさげたりしながら、客たちがもっとメートルをあげるようにと、絶えず、巧みに女給を煽るのであった。しかし、自分は決して客の相手にならず、話しかけられても簡単に受けながすだけだし、諄く冗談を云われたり、躯へ触られでもしたりすると、客のほうで消えてしまいたくなるほど辛辣な言葉で、てきびしく容赦なくやりこめた。
――おらんとこの五号船のぶっくれエンジンみてえだ。
東湾汽船の三十六号船に乗っている留さんがそう云った。その五号船はごく古いもので、エンジンを発動させると凄いような排気音を放ち、船ぜんたいをばらばらにするかと思うほど揺りたてる。五号船に乗っているあいだは、「うっかり口もきけない」といわれるくらいであった。
そのおさいが元井エンジを好きになった。きっかけを作ったのは、云うまでもないがおさいのほうだ。