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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

するとそこに、まったく予想しない事が起こって、私をおどろかせた。

私に拒絶されて、少年たちは明らかに失望し、途方にくれた。かれらは顔を見交わし、先生が駆引しているのではないかと疑い、そうでないことを認めるともっと失望し、どうしたものかというふうに、それぞれの手にした器物の中の鮒を見まもった。

「みんな」と長が急に云った、「それじゃあこれ先生にくんか」

くんかとは、贈呈しようか、というほどの意味である。途方にくれ、落胆していた少年たちの顔に突然、生気がよみがえった。それは囚われの縄を解かれたような、妄執がおちたような、その他もろもろの羈絆を脱したような、すがすがしく濁りのない顔に返った。

「うん、くんべ」と少年の一人が云った、「なせ、これ先生にくんべや」

「くんべ、くんべ」

「先生、これ先生にくんよ」とかんぷりが云った、「みんな、勝手へいってあけんべや」

私は自分の大きな過誤を恥じた。

少年たちに狡猾と貪欲な気持を起こさせたのは私の責任である。初めに私は「その鮒をくれ」と云えばよかったのだ。売ってくれと云ったために、かれらは狡猾と貪欲にとりつかれた。私のさみしいふところを搾取しながら、かれらも幸福ではなかった。