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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

なにやぶしさ。なにがなにやぶしだ。おめえのでいり話のことさ、あれはみんななにやぶしから取ったもんじゃねえか。それがどうした、と勘六が云い返した。なにやぶしってものは博奕打のでいりを元にして語るもんだろう、してみればおれのでいり話をなにやぶしが取ったとも云えるじゃあねえか、ええ。そして彼は自分のあたまのよさに酔い、例の浦粕的アフォリズムでしめ括りをつけた。

――大石ゆらの助は芝居を見てっから忠臣蔵をやらかしたんじゃねえだろう。

杉さんはあいそ笑いをし、お見それ申しましたと云って降参したが、あとで勘六の細君をさそい出し、三日のあいだ伴れ歩いてから、船橋という町で細君を放りだしたまま、姿をくらましたということであった。

――勘六は口で勝って手で負けた。

そういう評が立ったが、夫婦喧嘩のときにもときたまそのことが引合いに出た。

勘六もあさ子も博奕が好きであった。浦粕は小さな漁師町だから、博奕場などという大掛りなものは立たないが、慰み半分の寄合はよくあったらしい。そういうときには朝日屋へ知らせがある。相手は夫婦をかもにするつもりだが、夫婦はいっぱししょうばい人のつもりで、――なぜなら、亭主はもとなにがし組のあにい分だったから、――義理を欠かすわけにはいかない、などと気取ってでかけてゆく。