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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「敷居を踏んづければどうして足が曲るんだい」
「べらぼうめ、敷居は親の頭も同様だっていうんだ」
「へええ、おまえあたしの親かい」
「親なら半殺しのめにあわせるところだ、仮にも女房だからがまんしてりゃあいい気になりゃあがって、やい起きろ」と勘六は絶叫した、「亭主が起きて文句を云ってるのに、ぞべりけえったまんま聞いてるやつがあるか、こら、起きろったら起きねえか」
「うるさいね子供じゃあるまいし、起きて聞こうと寝て聞こうとあたしの勝手だよ」とあさ子は云い返した、「それとも起きて聞くほどごたいそうな文句でもあるってえのかい」
「このあま、もうがまんがならねえ」
「なにをすんだいこのもくぞう」
平手打ちの音と共に、取っ組みあいが始まり、器物が倒れたり毀れたりする音が、例によって賑やかに聞えた。
それから「出ていけ」になるのだが、そのときそれを云いだしたのは、あさ子のほうであった。
「仮にも亭主に向って出ていけたあなんだ」と勘六は息を切らしてどなった、「おらあな、三十円という大金を出して、てめえをごったくやから身受けしてやったんだぞ」
「身受けをしたのはてめえの勝手だ、こっちで頼んだわけじゃあねえや」