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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

とあさ子は喚き返した、「三十円三十円って、てめえは三十円出しただけじゃねえか、この家はいったい誰のおかげだよ、おれが日の出屋のじいさまに頼んで金のくめんをして、家賃をかけあったり造作を入れたりして、そのおかげで寝起きができるようになったんじゃねえか、そうじゃねえのかい唐変木」

「おらあ血の涙も出ねえ」勘六は呻いた、「てめえはな、そいつだきゃあ云っちゃあなんなかった、てめえが朝日屋って屋号にきめたときおらあ勘づいてたんだ、てめえの名と日の出屋の名をくっつけたんだなってよ、だが仮にもおらあ男だ、じっと肚あ押えてがまんして来たが、もうこうなったら男としてがまんできねえ、てめえとはたったいま縁切りだ、出てうせろ」

「縁切りだなんて恰好つけたこと云うんじゃないよ」あさ子は平然と云い返した、「別れたけりゃあ別れてやるからさっさと出ていきな、ここはあたしの家なんだから、断わっておくが出てゆくのはおまえさんのほうだよ」

「出てってやらあ、なんでえこんなぶっくれの乞食小屋あ」と勘六が云った、「その代りな、表の店台はおれの銭で拵えたもんだから、おれが持ってくからそう思え」