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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

子供のない夫婦っきりの生活は、極度に倹約だといわれていた。――一例をあげると、月給はそのまま郵便貯金にしてしまい、生活費は高品さんの奥さんから借りるのである。むろん計画性に立つ倹約生活だから、借りる金額もさして多くはないし、次の月給日にはきちんと返済する。そして残りはまたそっくり郵便局へ持ってゆき、金が必要になると高品さんの奥さんから借りるのであった。

――たいしたお金じゃないから貸し惜しみをするわけじゃないわよ、と高品夫人はいつか私に語った。だけれど郵便局へ預けた分には利子が付くでしょ、自分のお金には利子が付くようにしておいて、生活費のほうは人から借りるなんてこすいじゃないの。

貧しさから生れる知恵はつつましく、そしてたいていはかなしいものだ。末吉夫妻の知恵は貧しさから生れたものではない。夫妻の生活は貧しいものだろうが、その知恵は貪欲に通じるように思える。

――いまに高利貸しでもやるつもりだろうさ。

蒸気乗りたちは蔭でそう云っていた。

私は末吉エンジと五目並べをしながら、相手の置く石の一つ一つが、みな三四、または四四になるような、極めてゆだんのならない気分を味わっていた。