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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「どう化かされるだ」と漁師の吉さんが訊いた、「おめえもう見ちまったじゃねえか」
「おらを見てくれ」と留さんは振り向き、自分が固く眼をつむっていることを示した、「狐火だなと思ったからおらすぐに眼をつむっただ、みんなも見ねえほうがいいだよ」
「どう化かされるだってば」
「よくは知らねえが」と留さんはあたりを憚るように云った、「あの火はまやかしだってえだ、向うに火を見せておいて、狐はすぐ側にいるだ、そして人間が火に見とれているうちに、たましいを抜いちまうって云うだよ」
「たましいを抜いてどうするだ」
「化かすのよ」と留さんが云った、「人間にたましいがあるうちは化かせやしねえ、だからまず先にたましいを抜くだってえだ」
「へえ」と吉さんが云った、「へええ、おら初めて聞いた」
吉さんはなお留さんに構い続けた。
私は狐火のほうを見ていた。その火はまた変化して、元の位置にさがり、数も七つか八つになった。そうかと思うと等間隔のまま左へ大きく移動し、安ガラスをとおして見るように歪み、こちらの瞳孔が震顫するように、不安定に揺れながら、また左右へひろがって、二十以上にも数が殖えた。