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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

それは夜半に始まるので、漁師や釣舟屋の船頭たちは、口のひろい長さ一メートル半くらいの木綿の袋を持っていて、穴からぬけて海へ出ようとするごかいをその中へ流れ込むように仕掛けるのであった。

私が初めて東の浜へ出たのは、ごかい捕りとは関係がない。その浜には芦の畑があり、魚がよく釣れると聞いたからである。芦の畑などというと不審に思われるかもしれないが、実際に水際の広い地域に、幹の太さや葉の色などで個性をあらわした芦が、――たぶんそれぞれの用途によって区別されるのであろう。――稲や麦を作るように、規則正しく分類して育てられ、晩秋から冬にかけて順に刈り取られるのであった。その芦畑のあたりは、冬になると水鳥類のよい猟場になり、芦の茂っているうちは、縦横に通じている水路が魚の寄り場になる、といわれていた。

私は「青べか」を水路の一つへ漕ぎ入れ、例のとおり漠然とした勘によって釣糸をおろした。どれだけ収穫があったか、それとも一尾も釣れなかったか、私のノートにはなにも書いてない。それよりも水路を釣り廻っているうちに、私は十七号の廃船と、幸山船長にめぐり会ったのである。