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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

と答えた。

十七号はすでに廃船となって、徳行の岸に繋がれていた。いくらで払いさげるということにさえ、関心を持つ者がなかったくらいなので、幸山船長の交換条件はこころよく受入れられたのであった。――そこで彼は、十七号を東の浜まで曳いていってもらい、現在の位置に繋留したうえ、そこで自分ひとりの隠退生活を始めたのである。幸山船長には息子と娘があり、息子はT物産に勤めていい月給を取っているし、娘の嫁入った先もかなり裕福な商家で、どちらも父親を引取りたいと望んだ。幸山船長の妻はずっとまえに病死したから、世間に対しても、父親をそんなふうにほったらかして置くわけにはいかなかったのだろう。けれども、幸山船長は十七号船から動かなかった。浦粕の人たちに云わせると、――ふじつぼが岩にひっ付いたみてえ、だそうで、息子と娘とはやむなく、毎月の仕送りをすることで、各自の良心を慰めている、という話であった。

船乗りの船に対する執着と愛情については、外国の小説などによく描かれているが、私はブルさんがいまなお見えない眼を剥いて舵輪を放さないことや、この幸山船長の話に深い感動をおぼえた。