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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

顔もたっぷりと肥えてい、瞼が垂れさがっているため、眼は糸のように細く、視力も極度に衰えていた。顎のところには厚い肉が襞をなしてたたまり、首を曲げるとその肉襞がぐりぐりと動いた。――ブルさんとはその風貌ぜんたいをさした仇名であるが、あまり似すぎているため、却って興ざめなくらいであった。そのブル船長の視力は、二十メートル先もよく見えないというくらいだから、自分の眼では舵輪を操ることができない。そこで水夫の留さんが舳先に構えていて、「おも舵」とか「ゴーヘー」とか「とり舵」とか「ゴースタン」などと、大きく手を振りながら叫び、それによって船長は舵輪を廻し、エンジナーへの合図の鐘を鳴らすのであった。多少頭が温かいといわれている留さんには、それがなによりも誇りがましい任務だったろう、彼は酒に酔ったりすると、しばしば得意げにこう云ったものである。

――おらあがいねえば三十六号はやみだ。

それでもなお船をおりないブルさんのように、幸山船長も頑強にねばった。そうして、幾たびかめの辞職勧告に、多額の退職金が示されると、幸山船長は「金は要らないが十七号を呉れるなら退職する」