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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
いってみると、そこにはもう集まって来たべか舟の灯が十五六も見え、すでに仕掛を始めている者もあった。――私は倉なあこのするのを見たが、まえに記した袋の口の四カ所を、二本の女串に結び付け、その女串を水の中の砂に立てる。すると袋の口はほぼ四角形にあいて、下辺が砂地にぴったり着き、穴をぬけたごかいが流れて来れば、しぜんとその袋の中へはいる、というわけであった。――倉なあこは仕掛をしながら、例のゆっくりした訥弁で、以上のことを説明してくれたのだが、その説明が終るのを待っていたように、誰かが私に呼びかけた。
振り返ってみると、反対側の砂嘴に、幸山船長がカンテラを持って立っていた。
「ごかい捕りかね」と船長が云った。
私が答えると、船長は片手に持っている袋を、胸の高さまであげてみせた。
「今夜はぬけるのが早かっただ」と幸山船長はしゃがれ声で云った、「おらもう捕ったからけえるとこだよ」
それから人恋しげな口ぶりで、問いかけるように云った、「いっしょに船へ来ねえかね」
私は倉なあこを見たが、彼は黙って次の仕掛をやっていた。ちょっと迷ったが、人恋しげな船長の口ぶりは私をとらえてしまい、それを振り切ることはできなかった。