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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

、土地の言葉で云うと「ぶっくれ小屋」なるものが、ごちゃごちゃと詰めあっていた。

町の中心部は「堀南」と呼ばれ、「四丁目」といわれる洋食屋や、「浦粕亭」という寄席や、諸雑貨洋品店、理髪店、銭湯、「山口屋」という本当の意味の料理屋――これはもっぱら町の旦那方用であるが、そのほか他の田舎町によくみられる旅籠宿や小商いの店などが軒を列ねていた。その南側の裏に、やはり「ごったくや」の一画があり、たった一軒の芝居小屋と、ときたま仮設劇場のかかる空地がある、というぐあいであった。

これらのことをどんなに詳しく記したところで、浦粕町の全貌を尽すわけにはいかない。私も決してそんなつもりはないので、ただこの小さな物語の篇中に出てくる人たちや、出来事の背景になっているものだけを、いちおう予備知識として紹介したにすぎないのである。

はじめに「沖の百万坪」と呼ばれる空地が、この町の南側にひろがっていると書いた。私は目測する能力がないので、正確にはなんともいえないが、そこは慥かにその名にふさわしい広さをもっていた。畑といくらかの田もあるが、大部分は芦や雑草の繁った荒地と、沼や池や湿地などで占められ、そのあいだを根戸川から引いた用水堀が、「一つ」