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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

――とみちゃんは二十二か三だったと思う、骨太で、がっちり肥えていて、温和しいがしっかりした、よく働く娘であった。女中だから住居のほうの雑用をおもにするが、夫婦っきりの生活ではさして用も多くはない。一日の半分以上は発着所にいて、きん夫人の手伝いをするのであったが、そのうちに夫人のほうが飽きてしまい、発着所のほうはとみちゃんに任せることが多くなった。

そのうちにとみちゃんは、住居の用事が終ってから、切符売場へ泊るようになった。朝の一番は五時に出るので、売場に泊っていれば客をのがさずに済む。一番船は葛西汽船からも出るし、切符売場が時間どおりにあかなければ、客は葛西汽船のほうへいってしまうからであった。――いいだろう、とみちゃんの主張は、彼女の主家おもいを証明するものと受取られた。彼女は小屋へ夜具を運び込み、たいてい夜の十時には、住居のほうの用を片づけて、そちらへでかけていった。こうして日が経ち、やがて、高品夫人はおどろくべき場面を目撃するはめにたち到った。というのは、或る夜半、なにかのことで、どうしてもとみちゃんに訊かなければわからないことができた。夜半といっても十二時ころで、高品さんの家はいつも夜更しをするから、さしておそすぎるとも思わず、夫人は気軽に小屋へ訪ねていった。