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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

した。帰って来て、家へはいるといきなり始めたのであった。――留守のあいだに男を作った、ちゃんと聞いて来たと云うのが理由で、いちど途中で焼酎を買いにやり、それを飲んでからまた始めた。

「あんまりひでえんでよ、おら聞いていられなかった」と平二郎は云った、「もう夜の十時くれえだったが、おっかあやがきを伴れて外へ出ちまっただ、うちのおっかあは駐在へ届けべえって云っただよ、そんなことをしてみろ、あとが恐ろしいだぞって云って、おらたちは蒸気河岸までいって一時間くれえもぶらぶらしてえただ」

かれらが家へ帰ってみると、隣りの騒ぎはもうしずまっていた。平二郎は、増さんがきみのを殺してしまったのかもしれない、と思ってがたがたと躯がふるえた。ところが、ふしぎなことにその夜かぎり、増さんが別人のように温和しくなった。――きみのは殺されはしなかった。明くる朝そっと、平二郎の家の勝手口へ来て、済まないがお米を少し貸してくれ、と云った。眼のまわりに青痣ができてい、顔ぜんたいが腫れあがり、片方の足を痛そうにひきずっていた。あとでわかったのだが、きみのはそのとき左の足の骨を折っていたので、隣りとはいえよく歩いて来られたものだと、医者が云ったそうである。