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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

――足の骨折で、きみのは工場へ勤めにゆけなくなった。医者が呼ばれて来たときは、折れた骨のあいだに肉がくい込んでいて、手術をしてもどうにもならないと診断された。医学的にどういう症状なのか、詳しいことはわからないが、それ以来きみのは家でやれる内職を始めた。土地が土地だから内職といってもそう多くはない、漁師の仕事着であるぼったとか、赤ん坊の着物など、簡単な縫い物を安く引受けるぐらいがせいぜいであった。ぼったとは端切を縫い合せるもので、ぼろ布と端切さえあれば誰にでも出来る物であり、しかしどこの家でも主婦はそれぞれ稼ぎ口があるので、縫い賃が安ければ他人に頼むほうが、経済的には有利だったのである。

増さんはまた大蝶へかよい出した。もう若旦那の代になっていて、若旦那といっても年は四十がらみだったが、亡くなった大旦那から聞いていたのだろう、若旦那も鉄砲射ちが好きで、その季節になって猟にでかけるとき、増さんにお供を命じたが、増さんはそのたびに断わり、どうしてもいっしょにはゆかなかった。それについて増さんは一度だけ「大旦那のときに大きなしくじりをやらかしたから」ともらしたそうである。