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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

ドイツ製のなんという薬だ。忘れたけれども白い粉薬で一服のむと死ねるのだ。そんな問答をして、その夜は別れた。

「たぶん来やしまいと思ったわ、でも念のためだと思って薬だけ拵えておいたのよ」と栄子は云った、「かあさんが頭痛薬のノーポンをのんでたでしょ、それを一服しっけえしちゃって、それにメリケン粉を少し混ぜたの、ノーポンて薬は白くって、ガラスを粉にしたみたいにきらきら光るのよ、それがメリケン粉と混ざったものだから、とっても強い催眠薬みたいに見えたわよ」

私が質問すると、栄子は片方の肩をぴくんと突きあげた。

「そんなことわかりきってるじゃないの、あたいは借りがほうぼうに溜まってるでしょ、だから心中したってことになれば、みんな同情して、そんなようなわけなら貸しは待ってやろう、ってことになるわよ」と栄子は云った、「そうでしょ」

要するに偽装心中をたくらんだのである。栄子は岸がんが来ないかもしれないと思ったが、岸がんは約束どおりやってきた。彼は晒し木綿の肌襦袢と白いさるまたを見せ、死に装束だ、という意味のことを云ったそうである。襦袢もさるまたも既製品で、一と五〇くらい出せばどこでも売っている品物だそうであった。