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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

すると死にそうになる、二人が泣いて抱きすがると、いやまだだ、ほっとして助かるかもしれねえと思って、それはそれで嬉し泣きをするてえと、すぐにまたそら危ねえとなるってえあんべえさ」

三人の運転手は黙ってビールを啜った。かれらの顔には、その「依怙地」な心臓に対する反感が、隠しようもなくあらわれていた。

「だが助からねえものは助からねえ、寿命が尽きれば天皇さまのお子さまだって死ぬだ」と春さんは三人の眼をさまさせるようなことを云った、「――まあ三日めの夜の十時ごろだっけか、ちょうどおらが交代になってまもなく、島田初年兵は死んだだ」

三人は春さんを見た。寿命が尽きれば天皇の子さえ死ぬ、というショッキングな指摘と、さすがの心臓がついに兜をぬいだ、という表現とで、眠りかけていた好奇心がにわかに生気を取り戻したようであった。

「そうだかい」と運転手の一人がテーブルを撫でながら、いまにも笑いだしそうな、しかし悲しみの味をきかせた調子で、首を振りながら云った、「――やっぱりな」

「おらあ当直の軍医を呼んだだ」春さんは淡々とした口ぶりで続けた、「やって来た若い軍医は脈をみ、心臓へ聴診器を当て、瞳孔を見ただ、それから椅子に腰を掛けて、患者がまちげえなく死ぬのを待ってたっけだ」