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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「それでもおらあまだいいほうだった」と春さんは話を引戻した、「おらにゃあ交代ってものがある、交代になれば休むこともできるが、気の毒なのはそのおふくろさんと妹だった、小さな痩せたおふくろと、はたちくれえの、兄貴によく似た躯つきの固太りに肥えた妹とは、病人の枕許に付きっきりで、弁当もそこで喰べるし、手洗いにゆくときのほかはいっときも側をはなれねえし、一睡もしなかったっけだ」
「情愛だな」
「情愛だ」と春さんが云った、「おらなんぞ軍務の看護兵だが、とてもあの二人のまねはできなかった、とにかく付きっきりで一睡もしねえし、代る代る病人に話しかけては泣いてるだ、おふくろも妹も眼をすっかり泣き腫らして、いよいよ死ぬらしいと聞くたんびに、二人で島田に抱きすがって泣きひいるだ」
「それでも死なねえか」
「それでも死なねえ」と春さんが云った、「よっぽど心臓が丈夫だったんだべえさ、軍医もこんな依怙地な心臓にゃあこれまでおめにかかったことがねえって、心臓がこんなに丈夫でもよし悪しだって云ってたっけだ」
「専門家にゃあ専門家の意見があるだな」
「そんな状態がまる三日続いただ」春さんはまた巧みに話題のそれるのを防いだ、「口で云うと三日だが、実際その場で当事者ともなれば、三日は五日にも十日にも半月にもつくだべさ、そのあいだちっとの隙もねえだ、ひょいと