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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
世間知らずだでねえよ」
軽いのは口だけか、と誰かが云い、また高品夫人に叱られた。
私はそのときそこにいたのだが、留さんの「世間知らずだから」という言葉に少し感動した。留さんとしては自分の女を庇ったつもりだろうが、慥かに、そういうすさんだ生活をして来た者の中には案外「世間知らず」な人間がいるものである。食う心配ばかりして育って来たのに、少しも貧乏というものを知らない人間――というのは、貧しい人たちに対して同情のない、独善家という意味である――が、かなり多いのと同じように、おそらく留さんの云うことは正しいだろう、少しあったかいといわれる留さんの勘は、なまじっかな観察眼を持った者よりしんじつを見ぬく能力があるのかもしれない、と私は思ったものだ。
春になってから、私は根戸川亭で留さんを見かけた。私はビールを一本と、カツライスを取り、本を読みながら、それらをゆっくり片づけていた。留さんは隅のほうのテーブルで、二人の蒸気乗りなかまと、酒を飲みながら話していた。空いた燗徳利が三四本、肴の鉢や洋食の皿もかなり並んでいたし、留さんは上機嫌で、陽気に笑ったり話したりしながら、「まあ飲みなせえな」