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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
とか、「もっと食いせえ、ま」などとせっついていた。
かなり長いあいだ、留さんのことはみんなの関心の外におかれ、私も話らしい話は聞かなかったので、その晩の陽気な姿を見ても格別なものは感じなかった。しかし、その後また根戸川亭で、やはり蒸気乗りなかまに気前よく奢っているのを見かけ、どうしたことかと訝しく思った。そのうちに高品夫人が、どんなきっかけからだったか、留さんの「例の女」が、根戸川亭の女給になっていると云って、私をおどろかせた。
「あら、知らなかったの」と高品夫人は云った、「もう一と月くらいになるかしら、遊んでいても勿体ないからって、自分で押しかけていって住み込んだんですってよ」
私はちょっと考えてから質問した。
「あら、それも知らないの」と夫人は眼をみはるようにして答えた、「畳屋の職人にはべつに女があったんですって、お秀さん、――留さんの女の名前よ、お秀さんと夫婦約束はしたけれど、ねんがあけたからって、押しかけて来られたときには肝を潰したそうよ、それでもいやだとは云えなかったので、店を出すまで待ってくれってごまかしてたんでしょう、二月だかにお秀さんの預けた荷物やなんか、みんな持ったままどこかへいっちまった、っていう話だわ」