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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
私は留さんのために祝意を述べた。
「さあどうかしら」と高品夫人はあいまいに微笑した、「畳屋の職人はいなくなったけれど、根戸川亭へ住み込んでからずいぶん発展するっていうし、もう留さんの貯金も無くなるじぶんなのよ」
ほどなく私は、そのお秀という女を自分の眼で見た。
彼女はあぶらけのない渋色の膚で、額が抜けあがり、ぐるぐる巻にしている髪の毛はごく薄かった。痩せていて躯は小さいのに、骨組はずばぬけて逞しく、そのため、うっかり見ると肥えているように感じられるが、実際には肉も脂肪もそげおちて、逞しい骨に貼り付いたような皮膚は、到るところで皺たるみ、そしてかさかさに乾いていた。大きな眼には意地の悪そうな、棘とげしい色があり、サンド・ペーパーでも擦るようなしゃがれ声で、なにを云うにも喧嘩腰であった。――いったいこの女のどこに、若者たちを惹きつけるものがあるのだろうか、私にはそれがまったく理解できなかった。なお彼女は四十歳より下にはみえないし、四十六七といっても決してふしぎではなく、根戸川亭の主人や、古くからいた女給――といっていいと思うが――たちからも嫌われていることがあきらかにうかがわれたが、彼女のほうはてんで気にもかけず、なにをこのぬけ作どもが、とでも云いたげに、鼻の先であしらっていた。