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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
いずれともはっきりした根拠があったのではない、漠然とした自己保護本能、その潜在意識のはたらき、といったような感じの呟きだと思うのであるが、――しかしすぐに、私はそれを買ったとき、芳爺さんに頼んだことがあるのを思いだした。つまり修理ができても、当分のあいだ、船大工の岸へつないでおいてもらう、ということで、それは青べかへ乗るまえに長をはじめとする少年たちと、感情の融和期間を持ちたいと考えたからであって、ああそうだったと思いだし、ほっとしたとたん、まるで私がその約束を思いだすのを待ちかねていたように、芳爺さんが青べかを届けに来た。
私が云うと、爺さんは戸口で喚いた。
「いかずちでも邪魔っけだって云うだ」声いっぱいに喚きながら、老人は私の手を仔細ありげに見、そしてまた喚きたてた、「預かり賃を出せばべつだってえがね、日ぎめで駄賃をやって預けておっか」
私は答えて、爺さんといっしょに土堤へいってみた。
青べかは洗い場の杭につながれて、ゆらゆらとねむたそうに揺れていた。私の注文にもかかわらず、剥げていた青いペンキが、もっと毒どくしく、なにかをあざ笑いでもするように塗り直してあった。