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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

自分の亡き母のことを思ってくれたので、いちおう感謝の気持をあらわしたのだが、喪に服するなどということは、昔ばなしのほかに聞いたこともないし、夜具のまわりに砂のマジノ線を作るということ自体に、一種の鬼気といったふうなものが感じられて、五郎さんとしては多少ならず興ざめであった。

――本当にそんなことがあるんだろうか。

五郎さんは不審に思った。けれども男女間の機微に触れることなので、父親にはもちろん、親しい友人たちにも訊いてみるわけにはいかない。それでゆい子が里帰りをした日、彼は寺の住職のところへ訪ねていった。大松寺は浦粕町から東北東へ、三キロばかりいった田圃の中にあり、住職は某宗教大学を出た「インテリ」だといわれていた。

「そういう話は聞いたことがないな」と住職は笑いをうかべながら答えた、「ぼく寡聞にして知らずといったところかな、しかしまあ、いいじゃないか」

「寝床のまわりへ砂を撒くことですが、そんな習慣もあるんでしょうか」

「知らないねえ、ぞっとするねえ」と住職は答えた、「そんなふうに寝床のまわりへ、ぐるっと砂の線を引くなんていうのは、聞いただけでぞっとするねえ、しかしまあ、いいじゃないか」