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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
と呼んでい、蒸気河岸の「根戸川亭」とは格の違う、本式の洋食を食わせるといわれていた。主人はいかにもコックらしく、白い上っ張りに前掛、頭にも白い茸形のコック帽をかぶっているし、二人の若い女給もきちんとエプロンをはおっているというふうで、客が酔って騒いだりすると、主人のコックが出て来てつまみだすといわれ、そのためかどうか、若い衆といわれる人たちは殆んどよりつかなかった。五郎さんはその「四丁目」へ飲みにゆき、それからは毎晩、店を閉めるとすぐ飲みにいった。
こういう状態が長く続くものではない。喪があけてから六十幾日めかに、ゆい子は篠咲の実家へ帰った。ちょっといって来ると云ってでかけたが、そのまま戻らず、三日ほどまをおいて仲人が来た。家風に合わないから離婚したいというので、五郎さんも五郎さんの父親もあっけにとられた。誰がそう云うのかと訊いたら、嫁のゆい子がそう云ってきかないのだ、と仲人が答えた。
「そんなあべこべな話は請合えねえだな」と五郎さんの父親は云った、「家風に合わないとはこっちの云うことだべが、嫁のほうから家風に合わないなんぞと云われては筋が立たねえべ、そんな話はまっぴらごめん蒙るだよ」