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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
仲人は尤もだと合点して帰り、それから数回、両家のあいだを往復したのち、五郎さんのほうで「家風に合わないから離縁した」という名目を立て、正式に離婚がきまると、ゆい子の荷物もきれいに篠咲へ戻された。
町の人たち、ことに五郎さんの友人たちは、この離婚に不審を持った。友人たちはこの結婚に嫉妬と羨望を感じ、五郎さんとのつきあいも疎遠になっていた。云うまでもなく、花嫁が縹緻よしで、東京の女学校出身者であることが、かれらの庶民的な生活感情を刺戟したのであって、それが半年と経たないうちに離婚したとなると、かつての羨望や嫉妬が、こんどは激しい疑惑と詮索欲とに変った。
「いったいどうしたっていうだ」と友人たちは五郎さんに訊いた、「女学校を出たし、あんなきれえな嫁さんだったによ、なにがあっただかい」
五郎さんは答えに困った、「これってことはなかっただ、あの人もまたこれから嫁にゆくだろうしな、本当にこれっていうほどのことはなかっただよ」
友人たちは代る代る訊いたし、いろいろと近所の評をさぐってみたが、それほど骨を折る暇もなく、第一級の情報をつかむことができた。それは、篠咲へ貝を売りにゆく女が聞いて来たもので、――ゆい子は五郎さんが男でなかったから帰った、ということであった。