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あおべかものがたり

青べか物語

山本 周五郎

「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页

青空文庫

するとささやんは小首をかしげ、それではまた来よう、と云って役場を出ていった。彼には根小屋という小字に叔母がいて、彼の面倒をみてやっているのだが、毎月五日になると、年金と恩給を貰って来ると叔母に云って、町役場へでかけるのであった。叔母という人が町役場を訪ねて、こういうわけだからと話し、兵事係も心得て、ささやんがあらわれると、まだ通達は来ないと答えることにした。ささやんはそのたびに、いかにも納得しかねるという顔つきで、仔細らしく小首をかしげたりするが、べつに文句をつけるとか乱暴するようなことはなく、ではまた来よう、と云って帰るのが常であった。ただ一度だけ、彼は海軍軍部の怠慢を非難し、妻子を五人も戦死させておいて、年金や恩給の支払いをきちんとしないのは褒めたことではない、こんなありさまでは「また三・一五事件が起こるぞ」と警告したそうであった。

「人はなんによって生くるか、って云い始めたのはそれからあとのことですよ」と高品さんは云った、「ぼくもいちどやられました、道を歩いていたらいきなり立塞がって、あの拳骨を突き出してみせながら云うんです、頭がおかしいとは知ってましたがね、驚きましたよ」