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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
「ぬかすな、吉」とお繁はやり返す、「墓場の物を食うぐれえがなんだ、おめえのおっかあなんかもっとげんがだぞ、中堀の巳之なあことくっついて、夜中になると海苔漉き小屋へいって寝るだ、おんだら見てちゃんと知ってるだ、嘘だと思ったら、田島の漉き小屋へ夜中にいってみろ、二人でいっしょに寝て、尻尾を踏んづけられた犬みてえな声だしてるだから、げんがたおめえらのことを云うだ」
そして、さも軽侮に耐えない、といったふうに唾を吐くのだ。もしそれ以上なにかからかえば、お繁は手と爪と歯とで向ってゆき、じつに思いきった行動で相手をやっつける。頬ぺたや腕などに、お繁の歯形や爪跡のある子供は、二人や三人ではないようであった。
これが繁あねなのだ。しかもその躯はいま、内部から新しい彼女を創り出しつつある。私の眼に映った美しい部分には、成長するいのちというものが脈搏っているように感じられた。――そうだ、まだ子供っぽい腰つきにもどこやらまるみがあらわれ、平たい胸にもいくらかふくらみがうかがわれる。野性まるだしの好戦的な眼はうるみを帯び、薄い唇は活き活きと赤く湿りをもってきた。――或るときは妹を背負っていさましく歩きまわっているが、或るときはぐったりと草地に坐り、脇で泣いている妹の声も聞えないように、手足を投げだしたままもの憂げにどこかをみつめ