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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
乳呑み児の妹をどうやしなったかは誰も知らないが、赤児は丈夫そうに育っていた。――お繁はどこにいるかわからない。まだ暗いうち、ときには午前三時ころ、流れ海苔を拾いに南の浜へいそいでいる漁師が、百万坪の荒地のまん中で、妹を背負ったお繁に会う。
「ええっ」と漁師はとびあがる、「たまげたええ、繁あねじゃねえか、いまじぶんこんなところでなにしてるだ」
漁師の持っている提灯の光の中で、お繁はじろっと白い眼を向ける。
「いけ、ま」と少女は云う、「おんだらのことより、早くいって海苔を拾うがいいだよ」
或る日、お繁は消防のポンプ小屋の脇で、垢だらけの妹に小用をさせている。また町の家並みの裏をひっそりと歩いているし、或る夜は若い漁師が、ひび置き場の蔭でお繁を見つけ、慌てて、伴れの娘とほかの場所を捜しにゆく。繁あねはどこにもいないし、同時に、どこにでもいるのであった。
「わあい」と子供たちが囃したてる、「お繁がまた墓ん場の物を喰べてるだ、げーんが、げーんが」
げんがとは東京付近でいうえんが、またはえんがちょ、つまりけがれたというほどの意味であるが、するとお繁は妹を墓場に置いたまま、子供たちのほうへとびだして来る。