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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
「文藝春秋」1960(昭和35)年1月号~1961(昭和36)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,888 字 · 317 页
そのときブルさんの殆んど見えない眼が、遠くにあるなにかをさぐるように細められ、肥えて肉のたるんだ皺だらけの顔に、あるいはその顔の一と皮下に、あるかなきかの微笑がゆらぐようにみえた。
川の中から私に呼びかけたのは「若松」という小料理屋の女たちであった。いちばん若いおたつは満州帰りだといい、私が堀でスケッチをしているときに話しかけてから、顔を見れば挨拶をするようになっていた。
「また画え描きか」とおたつが云った、「そんなものどこがいいだえ、そんなことばっかししてえて頭が病めんべえがね」
「どこが病めっかさ」と脇の女が腹部へ水を掛けながら云った、「そんなすました顔うして、ねえ、先生だってやっぱり男は男でしょ、たまには遊ばねえとからだがうんじまうだよ」
私には意味がわからなかったが、もううんじまっていると答えた。すると三人はすさまじい嬌声をあげ、おたつは側にいた女に抱きついたし、残った一人は私のほうへ水をはねとばしながら、先生の****とどなった。
「晩にいってやっからな」私が歩きだすと、うしろでおたつの叫ぶのが聞えた、「戸に鍵をかけねえで待ってなえ」
もちろん誰も来はしなかったが、数日のあいだ私は、自身の躯がうんでいるように感じられて、ときどき快活な気分をさまたげられるのであった。